Vixen VSD90SS レビュー

はじめに

星沼会は、今年のCP+にて、Vixen様より新製品であるVSD90SSのレビュー打診をいただきました。私自身も手元とチリリモートにてR200SSを2台使用しており、大変思い入れのあるメーカーです。星沼会のメンバーに続いて、当方も僭越ながら簡単なレビューをさせていただく運びとなりました。他の方のレビュー記事についてはこちらから参照ください。

セットアップ

製品の外観については他のレビューが詳しいですので、早速自分のセットアップに移ります。今回のレビューで使用した構成は表1の通りです。

図1 セットアップ
OpticsVixen VSD90SS
Corrector
FilterAstrodon LRGB, SHO 36 mm (for ASI294MM), N/A (for ASI6200MC)
Focal length495 mm
F stopF5.5
CameraZWO ASI294MM, ASI6200MC
Gain120 (for ASI294MM LRGB), 200 (for ASI294MM SHO), 100 (for ASI6200MC)
Offset5 (for ASI294MM LRGB), 20 (for ASI294MM SHO), 50 (for ASI6200MC)
Binning2×2 (for ASI294MM), 1×1 (for ASI6200MC)
Sensor temp.-10 deg.C
MountCelestron Advanced VX
Guiding130 mm guide scope, QHY5L-IIM, PHD2
SoftwarePixInsight, Photoshop CC
表1 撮影条件

通年結露の危険がある日本においては、ヒーターまたはフードの使用が必須です。今回はこちらのヒーターを巻きましたが、狙ったかのようにジャストフィットして驚きました。

また、これは公式サイトにて謳われている通りですが、ZWO EAFの取り付けが純正パーツのみで可能です。接眼体の駆動トルクについてもEAF(現行モデルの5 V給電で動作するもの)が駆動できるトルクを考慮しているようで、EAFで駆動していてスリップや脱調するようなことは起きませんでした(フォーカス結果について詳細は後述)。

図2 EAFを取り付ける

テスト撮影

続いて、ASI294MMを用いてテスト撮影を行いました。初めに、オートフォーカスのバックラッシュ補正値決定と精度確認を行います。手順については以前の記事をご参照ください。

早速図3にオートフォーカス時のHFRカーブを示します。バックラッシュ補正値およびオートフォーカスの設定は図4の通りです。フォーカスカーブは双曲線近似で良好なフィットが得られており、適切にバックラッシュが補正されていることを示唆しています。

図3 オートフォーカスのHFRカーブ
図4 オートフォーカスの設定

フォーカス直後の星像についても図5の通り、フォーサーズ周囲は完璧な星像です。フルサイズは画面左側がやや片ボケ気味に見えますが、このままでも実用上気になりませんし、傾きの調整で改善できる可能性もあると考えます。

図5 中央および周囲の星像(ASI294MM, Haフィルター使用)
図6 中央および周囲の星像(ASI6200MC)

温度変化によるフォーカス位置の変動も小さく、図6の通り(定期的にAFはかけているものの)1℃程度の温度変化であれば、フォーカス位置の移動は無視できるレベルと考えます。

図7 テスト撮影中におけるHFRと温度の変化

そのほか、フォーカスの評価については天リフさんのコメントが興味深いです。

蔵王にて

基本的に撮影は自宅をメインに行いましたが、一度くらいは暗い空での撮影を行いたかったため、頃合いを見計らって蔵王へ行きました。この日の蔵王はいわゆる雲抜け状態で安定しており、一晩中快晴の空を楽しむことができました。

図8 撮影中の風景

作例

今回はモノクロナローとカラーカメラで2例の作例を用意しました。

1) NGC 6888

RGB画像にHOO合成した画像をスクリーン合成したものです。

図9 NGC 6888 (LRGB+SHO)
Exposure L [min]70
R22
G20
B20
Ha470
OIII652
表2 撮影条件 (その他の条件は表1による)

存在を知らない状態で画像処理を進めていたのですが、Soap Bubble Nebula なる惑星状星雲が写りこんでいることを発見しました。こういう偶然の発見があるのもナローバンドの面白さの一つです。

図10 Soap Bubble Nebula (画像左下)

2) Iris Nebula

続いてカラーの作例、アイリス星雲です。こちらは6200MCのブロードバンド撮影となります。

図11 Iris Nebula (RGB: 568 min)

所感

今回試用して感じたことは以下の通りです。

よかった点

  • フルサイズ最周辺まで良好な星像
  • 軽い (AVXできちんとガイドできる)
  • EAFのネイティブ対応

改善されると良いなと感じた点

  • 鏡筒バンドが一つしかない
  • 回転装置が二点留めである
  • レンズキャップが使いにくく、フードがねじこみ式である
  • 高額な値段設定に対し、ケースや鏡筒バンドが付属せず、割高感を感じる

一点目について、鏡筒バンドが一つしかないため、トッププレートを載せることができませんでした。トッププレートはハンドルのように持ち手になる他、鏡筒のたわみを抑え、さらにトッププレート上にミニPCやASIAIRなどアクセサリーを載せる人も多いことから、重要な要素であると考えています。もし自分が購入して運用する場合には、トッププレートを付けて、ミニPCを載せて運用したいですね。

二点目について、回転装置が二点留めの場合、多点留めと比較して接眼体の中でドローチューブが偏心しやすくなったり、傾いたりする可能性があります。図6で言及した片ボケについても、このような傾きが原因である可能性があり、同社の直焦ワイドアダプターのように、テーパーリング+多点留めの構成にしてほしいところです。

三点目について、レンズキャップはフードを取り外した状態でしか着脱ができず、ねじこみ式のフードを毎回着脱する必要があります。四点目にも通じますが、フードを着けた状態でレンズキャップができ、かつケースに収納できるような構造だと使いやすいと感じる方が多いのではないでしょうか。

四点目について、本製品は鏡筒バンドやアリガタ、ケースなどが付属しておらず、別売りとなっています。同性能・同価格帯の製品はこれらが購入時付属してくる製品も多く、価格を考えると正直割高に感じてしまう点は否めません。
また、ケースについては、フード収納状態で収納する形となっており、上述の通りフードを着脱する必要がある点が不便になるのではと感じます。フード+EAF+直焦ワイドアダプター装着状態で収納可能なケースがあると、より使いやすいのではと考えます。しかしながら、その光学性能は素晴らしく、光学性能に比して価格が高額である、というわけでは決してありません。

以上のように、気になる点がないわけではないですが、その光学性能は驚異的で、中判フォーマット対応の鏡筒と考えれば、非常に魅力的な製品であると感じました。改めまして、Vixen様には今回貴重な機会をいただきまして誠にありがとうございました。

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