FS-60CBの撮影方法改善
FS-60CBとRedCat 51を比較する記事にて、今までのワンショットカラーカメラでの撮影では気づけなかった、FS-60CBのピントずれ(色収差)の発見と、改善方法について考察しました。今回はツインシステムの初の本格稼働として、FS-60CBを使って撮影する際に、RGBの各色ごとにピントを合わせ直して撮影しました。この結果より、改めて両鏡筒の星像比較を行いたいと思います。ちなみに、だいこもんさんの記事では、今回取り扱うFS-60CB, RedCat 51を含めた複数の光学系でそれらの星像を比較していますので、こちらもご覧ください。
目次
バーティノフマスクについて簡単に
バーティノフマスクは、2005年にロシアのアマチュア天体写真家である、Pavel Bahtinov氏により考案されたマスクです。一定の角度でずらされたスリットにより生じた回折光の様子を見ることで、合焦位置がわかるというものです。バーティノフマスクの原理は回折によっているため、回折光の干渉により分光されて虹色の干渉縞となって見えます(原理について詳細は下記のだいこもんさんのエントリ参照)。つまり、バーティノフマスクの光条を見ることで、波長ごとの合焦位置のずれを把握することができます。
FS-60CBのピント移動
Fig. 1にRGB各色ごとのピント移動を示します。中央の明るい星はアークトゥルスです。バーティノフマスク、Gフィルタを装着した状態で可能な限りピントを合わせ(三本の光条が一点で交わるようにする)、ピント位置を動かさずに、R, G, B各フィルタを装着して1 sの露光を行ったものです。Fig. 1より、次のようなことが言えます。
- R, Bではピント位置がGと異なり、そのずれ量はBよりRにおいて大きい。
- Gフィルタの透過波長範囲(約 480-570 nm)では、干渉縞は一直線上に位置しており、合焦位置はこの波長範囲内でほぼ同じ位置である。
- Rフィルタの透過波長範囲(約590-700 nm), Bフィルタの透過波長範囲(約380-490 nm)では、干渉縞は一直線上になく、変形しているため、合焦位置はこの波長範囲内で異なっている。
つまり、前回の記事で述べたように、軸上色収差の影響が出ています(Fig. 1の画像をカラー合成したFig. 2がわかりやすい)。この結果を受けて、次の比較からは、R, Bそれぞれピントを合わせ直して撮影を行い、その結果をRGB合成しようと着想したのが、前回までの記事の内容となります。
※余談ですが、眼視用の望遠鏡では、人間の視感度が最も高い緑色の波長周辺で最も良い収差特性となるように設計がされていると聞いたことがあります。Fig. 1もG画像で最も良好な収差特性となっており、まさにこの設計思想と合致していますね。
各色でピントを合わせ直す
次に、各色でピントを合わせ直して撮影した星像を見てみます。Fig. 3のように、R, G, B各色で星像の大きさはほぼ一致させることができました。Lチャンネルでピントを合わせてそのまま撮影した画像(Fig. 4)と比較しても、改善が見られます。しかしながら、B画像を見てみると、明るい星の周りにハロが発生していることが分かります。これは青ハロとなってみえそうです。実際にFig. 3の画像をカラー合成したところ(Fig. 5)、明るい星の周りに青ハロが発生してしまっています。Fig. 1からわかったように、Bフィルタの透過波長範囲内でも合焦位置に差があることから、これ以上の追い込みは原理的に不可能と考えられます。また、青ハロが生じる原因には、コーティングなど他の要因も考えられるでしょう。FS-60CBはもともとが眼視用設計のため、仕方がない部分と言わざるを得ません。
星像の大きさ比較
最後に、改めてFS-60CBとRedCat 51の星像比較を行いたいと思います。今回はもう少し定量的な評価として、PSF (Point Spread Function)フィッティングにより得られたFWHMの値と、焦点距離とイメージセンサのピクセルサイズから決まるピクセルあたりの角度[arcsec/px]から、星像の大きさをarcsec単位で評価してみます。
星像の大きさ推定には、FWHMが同程度の値を持つ、五つの星(Fig. 6参照)を用いました。各鏡筒、各フィルタ間ですべて同じ星のフィッティングを行い、得られたFWHMの平均値から星像の大きさを求めています。PSFのフィッティング関数にはMoffat関数を使用し、x, y各方向のFWHMを求めています。(ただし、RedCat 51についてはカラーカメラでの撮影となるため、厳密には同条件ではありません。)
結果をFig. 7に示します。FS-60CBについては、各色ともに大きさが9 arcsec前後で一致しています。一方、RedCat 51ではRチャンネルに対してG, Bチャンネルで若干の肥大が見られます。とはいえ、その差は1 px程度であり、色ハロが出るほどの差ではありませんでした。
改めてカラー画像の比較を見てみます。最終的に星像の状態は両者ともに同等のレベルまで追い込むことができましたが、輝星の青ハロについては両者で明らかな差が見られます。FS-60CBについては、これが真の実力ということでしょう。
まとめ
今回は、2回の記事に分けて、FS-60CBとRedCat 51という2種類の鏡筒を比較しました。FS-60CBについては、各色ごとにピントを合わせ直すという作戦でかなり星像を良化させることができたものの、輝星の青ハロについてはこれ以上改善するのが難しい状況と考えます。やはり、最新の設計がなされた撮影用鏡筒と眼視用設計の鏡筒の差を完全に埋めることは難しいと感じました。
はじめまして。昔の記事へのコメントで申し訳ありません。最近、FL55SSの中古を導入して、250~300mmクラスに参戦…しようかな?と思ってる者です。また、以前FS60CBで撮影もしており、このクラスの使い勝手の良さは楽しいですね。
自分が撮影から遠ざかって10年になりますが、このクラスでは「RedCat51」の評価がすごく高いことを最近知りましたので、興味深く読ませていただきました。確かに素晴らしい性能ですね。
一方で、タカハシのFS60CBやビクセンFL55SSは「青ハロが出る」との評価が散見されます。どちらもフローライト採用。フローライトはEDガラスより圧倒的に広い波長域で光の透過率が高いです。眼視においてもスーパーEDガラス採用のTSA102が若干暖色系の像質に対して、フローライト採用のFC100Dは寒色系の色合いに見えます。もしかしたら収差補正方針とともにレンズ素材の違いもあるのかな?と考えたりしています。海外でもタカハシ旧型FSQ106kai(フローライト採用)は現行のFSQ106EDより青の感色性がよいので一部で熱い支持があるようです。