フラットフレームの撮影
フラット、それはキャリブレーションの要にして、永遠の課題…
光学系の周辺減光・(DSLRの場合は)ミラーボックスによるケラレ・センサーに付着した異物の影・センサーの感度ムラなどを補正するフラットフレームについて、私が試したことのある撮影方法を記載していきます。
フラットの適用例 (左: 補正前、右: 補正後)
毎回のお約束ですが、今回の記事はあくまで私の考察であり、誤っている内容を含んでいるかもしれません。ご指摘や、自分はこんな方法でフラットを撮っているよ!という情報がありましたら、コメントいただけますと幸いです。
目次
フラットフレームの撮影手順
フラットフレームの撮影には、次のものが必要です。
- カメラ (ライトフレームの撮影に使用しているものと同じもの)
- 光学系 (ライトフレームの撮影に使用しているものと同じもの)
- 光源
その中でも、1. と2. はあらかじめ用意されていますが、3. の光源をどうやって準備するかが、フラットフレームの撮影における課題となります。理想的なフラットフレームの撮影には、次の条件を満たす光源を用意することが必要であると考えています。
- 光源が無限遠の距離にある
- 光源全面で輝度のムラがない
- 光源が十分に暗い (1 s以上の露光時間となることが望ましい)
- 光源の発光スペクトルが恒星のスペクトル (e.g. 太陽)と近似している
- 光源は簡単に用意できる電源で駆動できる (e.g. USB (5 V), DC 12 Vなど、可搬性を考慮)
- 光源は簡単に持ち運びができ、いつでも撮影地にて使用することができる (光学系の焦点位置、センサーのゴミや温度、反射望遠鏡の鏡の状態などは後撮りでは完全に再現できないため)
上記の条件を全て満たす理想的な光源は存在しませんが、私がこれまでに試したことのある方法や、様々な方が行われている方法を列挙したいと思います。その中でも、⑤のELパネル/LEDパネルを使用する方法が、現状では最適であると考えています。
方法 | 条件への対応性 | ||||||
光源の距離 | 輝度ムラ | 明るさ | スペクトル | 電源 | 可搬性 | 総合評価 | |
ディスプレイ | × | 〇 | × | × | △(※1) | △(※1) | 2 |
空 | 〇 | △(※2) | △(※2) | 〇 | – | × | 3 |
積分球 | × | 〇 | 〇 | 〇 | × | × | 3 |
パネル | × | 〇 | 〇 | × | 〇 | 〇 | 4 |
総合評価: 〇: 1点、△: 0.5点、×: 0点として合計を計算。
※1: モバイルモニター、タブレットなどを用いれば持ち運び可能。
※2: 空の状態が急変する可能性あり、再現性という観点で△とした。
光源が用意できたら、下記の手順でフラットフレームとダークフラットフレームを取得します。
- 光学系を用意します。(撮影直後の状態が望ましいですが、最低でも光学系・カメラ・フードを用意し、撮影時の状態を極力再現します。)
- 光源を装着します。
- 露光時間以外のカメラの設定をライトフレーム取得時と同様にします。(感度・絞り値・センサーの温度など)
- 撮影を行い、ヒストグラムを確認します。ライトフレームの輝度値とフラットフレームの輝度値が大体同じレベルとなるように露光時間を変更します。
- 4. で決定した条件でライトフレームを撮影します。最低30枚以上は撮影を行います。
- 撮影後、カメラを取り外し、ふたをした状態でダークフラットを撮影します。5. で撮影した枚数と同じ枚数を撮影します。
フラットの光源
① ディスプレイを使用する方法
おそらく最も簡便な方法です。どこのご家庭にもあるディスプレイで真っ白な画像を表示し、そこに光学系を押し当てて撮影します。
便利な反面、持ち運びが難しいのが難点です。(モバイルモニタを使えば持ち運びができますが、大口径の望遠鏡には対応できません。)
手軽に試すことができるので、試験的に周辺減光を確認する際などに便利だと思います。
② 空を使用する方法
この方法について、私が試した限りでは良い結果を得られないか、撮影が面倒であったため、採用したことがありません。
光学系の前に拡散板を装着し、実際の空を光源としてフラットを撮影する方法です。拡散板、空の種類にもバリエーションがあり、これらの組み合わせで撮られることが多いです。詳細の説明については割愛いたします。
拡散板の種類
- 白い壁 (壁紙・障子など)
- 白い紙 (画用紙・トレーシングペーパーなど)
- 白いビニール袋
- 白いTシャツ
空の種類
- 薄明中の青空 (通称: 薄明フラット)
- 薄明中でない青空 (通称: スカイフラット)
- 晴天の闇夜
- 曇天 (昼夜問わず、通称: 曇天フラット)
③ 積分球を使用する方法
④の方法を編み出すまで、私がメインで使用していた方法になります。
積分球とは、反射率が高く、光を拡散しやすい物質で内部がコーティングされた球を指します。ここに光源を入射することで、入射した光は内壁で拡散反射を繰り返し、積分球内はほとんど均一な明るさとなります。この積分球の内壁を均一な光源とみなして、フラットの撮影に応用するという方法です。
光源の全光量の測定、ランプや蛍光体の発光スペクトルの測定、光学系の評価など、正確な評価に使用することができますが、私の作製した積分球もどきでは十分均一な光源を得ることができませんでした。また、私の作製したものは60 cmの球であり、解体もできないことから、可搬性の観点で使用を断念しました。
しかしながら、幅広い波長で反射率の高いコーティング (e.g. 硫酸バリウム)と、太陽光のスペクトルに近い光源 (e.g. キセノンランプ)を組み合わせれば、理想的なフラット撮影用光源となる可能性があると考えています。
④ ELパネル/LEDパネルを使用する方法
均一に光るパネルを光源として、フラットを撮影する方法です。この方法が、現在最適と感じている撮影方法です。
広く入手可能な光源には大きく2種類あります。
- ELパネル
- LEDパネル
ELパネルは面全体が発光することから、光源の均一性に大変優れています。一方、価格が高いことや、発光スペクトルにおいて赤色付近の発光強度が低いことから、Rチャンネルにおいてフラットが負補正となる懸念があります。
一方、LEDパネルは一般的に指向性が強く、点光源に近い発光を示します。しかしながら、白色LEDの低価格化・光を拡散させる導光板の性能向上により、安価で均一な白色光源を得ることが可能となってきています。
一方、一般的な白色LEDの発光スペクトルについては、無機ELと同様、赤色の発光強度が低いものが多く使われています。より演色性の高い白色LEDが開発され、普及し始めているものの、安価に入手可能な白色LEDの多くは、下図のような発光スペクトルであることが多いと考えます。とはいえ、ELパネルと比較すると赤色付近の発光強度は高く、価格も安価なため、手軽な光源として適していると考えました。
さて、私のLEDパネルは、絵を描く際に使用する「トレース台」として市販されているものを使用しました。私の購入したものはこちらの商品となりますが、似たような価格のものであれば、おそらくは大きな差がないと思います。
こちらのトレース台は下から紙を照らす目的で作られているため、そのままでは大変明るくて使いにくいものとなっています(本来想定されている用途ではないので当然ですが・・・)。
そこで、私は二種類の方法で減光をしています。
① 電源電圧の変更
② 減光板の追加
電源電圧の変更
こちらのトレース台はUSB Micro-B端子よりDC 5 Vの電源を供給しています。LEDはある電圧を超えると急激に明るさが明るくなりますが、そのしきい値前後の電圧に調整することで、多少の明るさ変更が可能です。
そこで、どこのご家庭にもある定電圧電源にて、何V以上でLEDが点灯するかを確認しました。その結果、こちらのトレース台は印加電圧2.6 V以上で安定して点灯することがわかり、5 V印加時に比べて減光することができました。
続いて、USBが供給する5 Vの電源を降圧する回路を用意します。私はこちらのDC-DCコンバータを使用し、2.6 Vに降圧しました。これにより、モバイルバッテリを電源として2.6 Vの電源を取ることができました。
減光板の追加
フラットを撮影するうえでは、上記の方法だけでは十分に暗くならず、さらに減光するための板を追加しました。
減光には天文ショップ・ダイソーで購入したEVAスポンジシート(白)と半透明のアクリル板(1 mm)を使用しました。アクリル板の表面は平滑で光を反射しそうだったため、紙やすりで荒らして光の反射を抑えました。この二つのシートを、EVAシート→アクリル板の順で重ねました。
以上の方法で作製したパネルを、撮影が終わった状態の鏡筒先端に載せ、フラット撮影を行います。
おわりに
今回は、フラット撮影について記載しました。一番上の画像のように、きれいにハマるフラットが撮れるようになったのは、LEDトレース台を導入してからになります。各人に最適な方法があると思いますので、いろいろ試してみると良いかと思います。
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