チリリモート・執念のアンタレス付近
丹羽さんがチリリモートの環境で撮影されたアンタレス付近の画像処理をお手伝いしました。アンタレス付近は私が本格的な天体写真撮影を始めたいと思ったひとつのきっかけでもあって、吉田さんのホームページにある画像を見て、やる気が出たのをよく覚えています。
日本から撮影できない対象ではないものの、南中高度も低く、天気が悪い時期にあたることもあってなかなか露光を伸ばせない対象です。しかしながら、南緯-30°付近のチリでは、アンタレスがちょうど天頂まで上がります。そんな素晴らしい環境で撮影された、100時間を超えるデータを扱わせてもらいました。処理を行う中で気付きもあったため、記載したいと思います。
目次
撮影データ
モザイク合成は縦4×横2パネルの8パネルで行いました。手順としてはPixInsightで各フィルタ画像を前処理、Astro Pixel Processor (以下APP)でモザイク合成という手順です(APPでのモザイク合成については後述)。8パネルといっても、フィルタごとに合計32パネルの前処理が必要となりました。最終的に出てきた画像は上の通りで、130時間という露光時間と手間のかかる処理を行っただけある結果が得られたのではないかとうぬぼれています。
Optics | Takahashi FSQ-106N |
Corrector | – |
Filter | Baader LRGB 1.25 inch |
Focal length | 530 mm |
F stop | F5.0 |
Camera | ZWO ASI1600MM |
Gain | 0 |
Offset | 10 |
Binning | 1×1 |
Sensor temp. | -20℃ |
Exposure | Total exposure: 131 h 55 min. 2×4 panel mosaic |
Date | 28-Mar. 2022 ~ 7-Jul. 2022 |
Mount | Paramount ME |
Guiding | Baader Vario-Finder 60 mm, QHY5L-IIM, PHD2 |
Software | PixInsight, Astro Pixel Processor |
モノクロ画像のモザイク合成
今回は、すべてモノクロカメラだけで撮影された画像のモザイクを初めて行いました。最初に迷ったのがLRGB合成とモザイクの順番です。以下の3パターンが考えられました。
- LRGBのモノクロ画像を各フィルタごとにモザイク合成し、位置合わせしたのちLRGB合成を行う。
- LRGB合成を各パネルの画像で行い、得られたカラー画像をモザイク合成する。
- RGB合成を行ったカラー画像、L画像をそれぞれモザイク合成し、位置合わせしたのちLRGB合成を行う。
初めは2. の方法を試しましたが、輝度ムラが発生してしまいました。APPでのモザイク合成時にLocal Normalization Correction (以下LNC)を入れることを試みたのですが、各カラーチャンネル間で効き方に差が生じてしまい、不自然な結果となりました。そこで、1. の方法を試したところ、LNCも正常に行われ、自然な画像を得ることができました。
Rチャンネルの輝度ムラ
しかしながら、カラー合成をしてみた結果、Rチャンネルに輝度ムラがあることが判明しました。画像の下半分が赤くなってしまい、Rチャンネルのみ輝度ムラの修正がうまくいっていないようです。
さすがにここまで来て前処理をやり直すのは手間だったので、私はPhotoShopでグラデーションマスクを適用して、下図のように修正をしてしまいました。
先程よりはよくなりましたが、今度は下半分のパネルが緑色に転んでしまいました。M 4は本来オレンジ色の星が多い球状星団のはずですが、これでは若い星ばかりの球状星団のように見えてしまいます。やはり処理中に根本的なエラーが起きているようで、ここで丹羽さんにバトンタッチしました。
輝度ムラの問題解決?
しばらくして、丹羽さんから最初の画像が共有されました。丹羽さんによると、前処理をすべて一からやり直されたようで、特にPixInsightでの前処理時にLocalNormalizationを行ったところ改善が見られたということでした。しかしながら、私も前処理時にはLocalNormalizationを行っており、両者ともにパラメータはデフォルト値とのことで、なぜ差異が生じたかは不明です。差異が生じた原因については、引き続き検証をしてみたいと思います。
今回画像を触らせてもらうことで、私の中での「アンタレス付近を撮りたい欲」が完全に収まりました。これ以上の画像を日本国内で追い求めるのは不可能といえるでしょう。チリリモートへ広角の鏡筒を送り込んだ際には再チャレンジしてみたいですが、少なくとも日本国内でこの対象を撮影しなければいけないという呪縛から解き放たれて、楽になった気分です。