チリリモート運用の準備(3)機材設置~ファーストライト

前回の記事に引き続き、チリリモートの運用について、準備状況のアップデートです。今回はついにファーストライトまでたどり着きましたので、機材の設置からファーストライトまでの流れを紹介します。

機材設置

チリリモートのサイトを管理しているのはObstech社という会社になりますが、機材の設置は、丹羽さんのご友人である方(以下Eさんとします)が行ってくれました。設置の様子は、Eさんが画像を逐一送ってくれたので、その中の何枚かをご紹介します。

赤道儀は同じく丹羽さんのご友人(Cさん)から、当面の間お借りする物となっており、そこへ送った機材一式を取り付けてくれました。Obstech社とEさんへは事前に手作りの簡易マニュアルを送っておきました。このマニュアルを読んでくれたようで、それを参考にセットアップしてくれました。周辺機器とケース類はコントロールボックス内に整理してしまっていただきました。極軸合わせ後はPHD2のドリフトアライメント機能を使って追い込んでくれたようです。またPCのネットワーク接続や必要なソフトのインストール、AC電源とDC 12 Vの電源をリモート環境からオンオフするツールなどの設定を行ってくれました。最後に赤道儀の動作テストを行って、準備は完了となりました。

これからお借りする赤道儀
ピラーに設置して
鏡筒が載り、カメラも取り付きました
カメラ周り
作成したマニュアルを読んでくれました
星沼会ステッカーが光ります
周辺機器類はボックス内に整理
極軸合わせ後のドリフトアライメント
オートガイドのテスト

テスト撮影

早速テスト撮影を実施しました。制御ソフトは事前にインストールしておいたN.I.N.A. Ver 2.0 HF1 を使用しました。この時点でいくつかの課題が見えてきました。

  1. オートフォーカスで正しいピント位置が合わせられない
  2. 星像がおかしい
  3. シーケンスを実施中にリモートPCとの接続が切断される

1.については、オートフォーカス機能は正常に動作していたものの、バックラッシュの補正がうまくいっていない様子でした。これについては設定を最適化すれば良いだけなので、大きな課題ではありません。
2.については、中央と四隅の星像を見てもわかるように、光軸のずれに起因する問題と考えられます。光軸調整をEさんへお願いしていますので、調整によりよくなるはずです。

中央と周辺の星像

3.は厄介な問題で、シーケンス撮影中にリモートPCとの接続が切断されてしまうということが2日連続で発生してしまいました。接続が切断されてしまうとPCの状態を確認することが不可能となるため、PC自体は正常に動作しているがネットワークが切断されている、またはAnyDeskが起動していない、またはPCがシャットダウンしているといった状態のどれになっているかがわかりません。仮にPCの電源が喪失していた場合、赤道儀は追尾を続けるため、ピラー脚へ赤道儀が衝突します。実際にこの時は赤道儀が追尾を続け、ピラー脚へ衝突する事態となってしまいました。
このような事態を避けるため、2つの対策を施しました。

  • 赤道儀の電源を遠隔でオフにする
  • PCの電源を遠隔でオンにする

今回は、EさんがIP Powerと呼ばれる、PCの電源(AC 220 V)と赤道儀を含むDC 12 Vの電源をネットワーク経由でオンオフすることができる装置を取り付けてくれました。VPNを通じて観測所のネットワークに接続することで、ネットワーク外にある手元の端末から遠隔で電源のオンオフが可能になります。非常時はこちらの機能で電源をオフすることで、ピラー脚と赤道儀との衝突は防ぐことができます。さらに、PCの電源が喪失し、再度電源が復帰した際に、PCを自動的に起動するという設定を行うことで、PCの電源を遠隔でオンにすることが可能となりました。このような設定はEさんが提案してくれたものです。こちらの機能の設定には、UEFI(BIOS)の設定が必要となりますので、Eさんにそのままセットアップをお願いしました。

当初はN.I.N.A.とWin11の相性問題が疑われたため、APTを使ってテストを継続しました。この晩は一晩安定して稼働しました。(のちのちのテストで、APT使用中にもシャットダウンが発生したため、N.I.N.A.の問題ではないと考えています。)

ピラー脚と赤道儀が衝突しそうになった

ファーストライトとライブ配信

3夜のテスト撮影を経て、10/16の朝9:00(日本時間、チリ時間は10/15 21:00)よりファーストライトの儀式(?)を行いました。Zoom会議で星沼会のメンバーとEさんを繋ぎ、リモートPCの映像はYouTubeより配信を行いました。こちらの配信は20名程度の人が見に来てくれたようで、コメントもいただけて盛り上がりました。配信では赤道儀のアンパークからピント合わせ、対象の導入と撮影シーケンスの開始までをご覧いただきました。配信は一時間程度で終了し、その後はEさんとお話をしました。どうやらEさんはメカエンジニアをされているようです。今回起きている星像の問題について、カメラアダプターのガタによりカメラが傾いていることも原因ではないかと指摘されていました。カメラアダプターにはZWOのEFマウントアダプターを使用しており、バヨネット式の取付部となっています。合わせ面の間に隙間が生じ、カメラが傾くということは従前より発生しており、その通りだなと感じていました。しかしそれだけにとどまらず、「ねじ込みタイプのアダプターを自作する」という提案をしてくれました。Eさんのご自宅には旋盤があるそうで、アルミの丸棒を削り出してアダプターを作ってくれるようです。念のため「コレクターとカメラ間のバックフォーカスをきちんと保ったままアダプターを作ることはできるか?」と確認したが、こちらも「問題ない」との回答。セットアップの時から感じていましたが、Eさんの情熱はものすごく、我々のために最善を尽くしてくれています。大変ありがたいなと感じながら、ファーストライトを終えることができました。

ファーストライトの様子

光軸調整

ファーストライトからほどなくして、Eさんが光軸調整を行ってくれました。調整にはHotech社のレーザーコリメータを使用してくれました。光軸調整の作業は恐ろしく早く、10分程度で完了した旨の連絡が来ました。調整前の状態を見ると、レーザー光は主鏡の中心へ投影されておらず、反射光もコリメータの中心へ返っていないことから、斜鏡と主鏡両方の傾きがずれている可能性が考えられました。調整後の状態を見ると、正しく主鏡の中心へ投影され、コリメータの中心へ返るようになったようです。

使用したレーザーコリメータ
調整前: 主鏡のセンターマーク
調整前: レーザーコリメータへの反射光
調整後: 主鏡のセンターマーク
調整後: レーザーコリメータへの反射光

調整前後の星像を比較しても、調整後は周辺まで星像が丸くなっており、改善したことがわかります。

調整前の星像
調整後の星像

まとめ

ファーストライト結果のまとめです。

  • ニュートン反射はチリへの輸送で光軸がずれる
  • リモート接続が不安定で切断されることがある
  • PCの再起動はVPN接続とIP Powerの組み合わせで対応可能

リモート接続が不安定という課題が残りますが、なんとか運用できるレベルまでもっていくことができたと思います。テスト撮影を始めてからというもの、サイト周辺は毎夜快晴が続いております。今後の成果に期待したいところです。

最後に、赤道儀をお貸しいただいたCさん、ファーストライトまで非常に強力にサポートいただいたEさん、サイトを提供いただいているObstech社に御礼申し上げます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です