CMOSカメラのゲイン(コンバージョンファクタ)の測定 ①

はじめに

天体用CMOSカメラを導入しようとした際に必ず耳にするパラメータとして、ゲインがあります。私自身も最初にCMOSカメラの撮影パラメータを見たときに、撮影者はどのようにしてこの値に決定したんだろう、と疑問に感じていました。今回はそんなゲインの測定について記載します。

CMOSカメラでは、光がイメージセンサに入射すると、イメージセンサの各画素に配置されたフォトダイオードで電流に変換されます。各フォトダイオードにはスイッチが付いており、スイッチを順に切り替えることで画素ごとに増幅、A/D変換が行われます。ここで、ゲインとは名の通り、イメージセンサの増幅率(入射した光子によって発生した電流を何倍に増幅するか)を表すパラメータになります。

Fig. 1はASI294MMのゲインと他のパラメータの関係を表したものです。
横軸は撮影時に設定するゲインの数値を表しています。ここで、unit 0.1 dBと記載があるのは、数値に0.1をかけると、デシベル値となることを示しています。(ex. ゲイン120 = 12 dB)
デシベル値の定義より、6.02 dB増加すると感度が2倍になる (\(10^{\frac{6.02}{20}}\approx2.0\)) ため、グラフに記載のゲインは、60.2 増加すると感度が2倍になるということを表しています。

Fig. 1 ASI294MM Proのゲインと他パラメータの関係 公式サイトより引用

次に、上から二番目のグラフに着目します。写真撮影で受け取るシグナルは光ですので、我々が知りたいのは、電圧の増幅値ではなく、光子がイメージセンサに入射した時、センサが出力するデジタル値がどう変化するか、となります。この値をコンバージョンファクタと呼びます。例えば、コンバージョンファクタが1 e-/ADUということは、1個の電子に対して増加するデジタル値が1 ADUであるということを示しています。(ADU: Analog to Digital Unit、フォトダイオードの電流を増幅してA/D変換した際のデジタル値)
フォトダイオードで発生する光電子の数は入射した光子の数に対応していますので、これで光の強さとゲインの設定値の関係がわかることとなります。
この値が1よりも小さいきい場合、例えば0.1 e-/ADUの場合は、一個の電子に対してデジタル値が10増加します。つまり、得られたデジタル値に10程度のばらつきが生じることになってしまいます。一方、この値が1よりも大きい場合、例えば2 e-/ADUの場合は、2個の電子に対してようやくデジタル値が1増加することになり、非効率となります。(※1)このような考察より、「単純にゲインだけを考慮した場合」(※2)は、増幅率が1倍 = 1 e-/ADUのコンバージョンファクタとなるゲインで撮影するのが有利と考えられます。このようなゲインを、一般に「ユニティゲイン」と呼びます。

※1 ゲインを上げるとダイナミックレンジが減少するため、必ずしもゲインが高いほど良い結果が得られるとは限りません。
※2 撮影の設定を検討するうえでは、環境要因(空の明るさ、撮影にかけられる時間)、ハード要因(イメージセンサのHCGモード)などで適切な設定は変わってきます。

今回の記事では、Masa’sAstroPhotographyさんのご厚意でお借りした、ASI071MCを題材として、ゲインとコンバージョンファクタの関係について測定してみます。

測定方法

具体的なコンバージョンファクタの測定方法について説明します。今回はこちらのサイトに記載されている測定方法を引用して説明します。詳細な説明はサイトを参照ください。また、類似の測定を試みている方の記事を併せて紹介いたします。

ASI294MC (その2): 性能評価

PlayerOne Xena_M インプレッション①

測定データの取得

コンバージョンファクタの測定には、フラットフレームを使用します。光学系の影響を取り除くため、カメラ単体でフラットフレームを撮影します。また、カラーカメラの場合は画素ごとにカラーフィルタが存在するため、今回の測定ではG1チャンネルのみを取り出しています。

  1. カメラをLEDパネル上に設置する。
  2. LEDパネルを点灯し、あるゲインにて露光時間を変えながら2枚ずつフラットフレームを撮影する。
  3. ゲインを変更し、2. を繰り返す。 (詳細な撮影条件はTable 1による)
  4. フラットフレーム撮影時と同様のゲイン・温度にて、バイアスを撮影する。(100 * 0.032 ms)
  5. PixInsightの”SplitCFA”を用いて、G1チャンネルのみを取り出す。
  6. マスターバイアスを作成し、フラットフレームにバイアス減算を行う。
  7. ファイルをfitsファイルに変換する。
Fig. 2 フラットフレームの撮影
Optics
CameraZWO ASI071MC
Gain0-250 (with increment of 25)
Offset20
Binning1×1
Exposure1/1500-1/500 (with increment of 1/50, 1 frame each)
Sensor Temp.0゚C
Table 1 撮影条件

評価

ここでは、3種類の評価を試みました。
方法①: ピクセル間の感度むらを補正しない方法
方法②: ピクセル間の感度むらを補正した方法 (より高精度な方法)
方法③: 2次式でフィッティングしたときの1次の係数より求める方法
方法①では、\(k^2S_C^2\)の項を無視し、(1)式に沿ってノイズの大きさとシグナルの大きさをプロットした時の、傾きの逆数よりコンバージョンファクタを求めるというものです。ノイズの大きさはフラットフレームの分散に等しく、シグナルの大きさはフラットフレームの輝度の加算平均となります。撮影した画像より輝度の加算平均、分散を計算し、最小二乗法により直線近似を行い、回帰直線を求めています。

$$
N_C^2=R_C^2+\frac{1}{g}S_C+k^2S_C^2 ~~~~~~~~~~~~(1)
$$

  • \(N_C\)・・・測定されたノイズの大きさ
  • \(R_C\)・・・リードアウトノイズの大きさ
  • \(S_C\)・・・測定されたシグナルの大きさ
  • \(g\)・・・コンバージョンファクタ [e-/ADU]
  • \(k\)・・・ピクセル間の感度むら

方法②では、ピクセル間の感度むら\(k\)の項をキャンセルするため、同じゲイン・露光時間で取得した2枚のフラットを用いて、次の操作を行います。得られた画像より、同様に直線近似を行い、傾きの逆数を求めています。

  • 同一ゲイン・露光時間のフラットフレームを2枚撮影する。・・・\(I_A, I_B\)とする。
  • \(I_A, I_B\)よりバイアス\(I_\rm{bias}\)を減算する。
    $$
    I’_A = (I_A-I_\rm{bias})
    $$
    $$
    I’_B = (I_B-I_\rm{bias})
    $$
  • それぞれの画像の輝度平均\(S_A, S_B\)を求める。(引用元では中央50×50ピクセル程度の領域を切り取ることとされているが、今回は画像全体とした。)
    $$
    S_A = \bar{I’_A}, S_B = \bar{I’_B}
    $$
  • 輝度平均の比を取る。
    $$
    r = \frac{S_A}{S_B}
    $$
  • \(I’_B\)に\(r\)を乗じる。これにより、\(I’_A,I’_B\)の輝度差が補正される。
    $$
    J_B = rI’_B
    $$
  • \(J_B\)を減算する。これにより、ピクセル間の感度むらがキャンセルされる。
    $$
    J_A = I’_A-J _B
    $$
  • \(J_A\)の分散を計算し、2で割る。(似たような画像の差を取っているため、計算された分散は元画像の分散の2倍となっている)
    $$
    V_A = \frac{1}{2n}\sum_{i=1}^{n}(J_{A,i}-\bar{J_A})^2
    $$
  • 複数の露光時間で求めた\(S_A\)に対して\(V_A\)をプロットする。のちの手順は方法①と同様。

方法③は、(1)式にそってプロットを2次式でフィッティングしたときの1次の係数が\(\frac{1}{g}\)となることを利用します。さらにこの方法では、0次の係数より、同時にリードノイズ\(R_c\)を求めることも可能となります。

(1)式の妥当性を確認するため、実際に方法①によるプロットを作成してみます。(1)式より、2次の係数が大きくなるのは、測定されたシグナルの大きさ\(S_C\) (=平均輝度)が大きくなった場合です。実際に\(S_C\)に対して\(N_C^2\)をプロットしてみると、Fig. 3のように露光時間が短い場合はほぼ線形近似可能ですが、Fig. 4のように露光時間が長くなった場合は線形近似ができなくなり、二次式で良好なフィッティングが得られることがわかります。このことからも、実際の輝度と分散の関係は、(1)式に従っているといえそうです。

Fig. 3 方法①: 露光時間が短いときのプロット (1/500 – 1/1500 s)
Fig. 4 方法①: 露光時間が長いときのプロット (1 s – 1/512 s) 右は2次式による近似(方法③)

実装

以前、QHY5III174Mのダークノイズについて解析した際のプログラムをベースとして、上記の方法①と②を評価できるプログラムを作成しました。 同時に複数ゲインの画像を処理できるようにするため、配列をごり押しで9個作成しています。とてもひどい実装ですが、その点はご容赦ください。
ちなみに、マスターバイアスの作成やフラットフレームのキャリブレーションについてはPixInsightのプロセスを使用しようと思いましたが、処理結果が正規化されてしまうため、自分でコードを書きました。こちらのコードについても、併せて上記GitHub内のプロジェクトに保存しています。

次回の記事では、実際にASI071MCのコンバージョンファクタを測定し、メーカ公称値と比較してみます。

謝辞

ASI071MCを快く貸していただいたMasa’sAstroPhotographyさんにお礼申し上げます。また、コンバージョンファクタの測定方法については、あぷらなーとさんにご指導いただきました。お礼申し上げます。さらに、あぷらなーとさんからは「とあるもの」もお借りしております。こちらについても次回の記事で取り上げたいと思います。

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