モノクロLRGB合成におけるRGBの露光時間検討
目次
はじめに
私がモノクロCMOSカメラを用いたLRGB合成を始めてそろそろ1年となります。始める前から疑問で、今でも疑問なのが、LRGB各フレームにどれだけの露光時間を割くか、という問題です。特に遠征撮影では時間が限られていることや、天候の急変もあり、適切なLとRGBの露光時間のバランスを把握しておくことが重要です。
姉妹ブログ認定をいただいている、『たのしい天体観測』でも、同様の検証を実施されており、『私の光学系、撮影環境においては「全体の露光時間の半分をLにあてて、残りをRGBにあてる」という戦略で当分続けようと思います。』というのが結論となっておりました。今回は、私なりの方法で同様の検証を行い、LとRGBの露光時間のバランスについて検討したいと思います。
検証方法
Fig. 1を元画像として、検証を行ってみます。撮影条件をTable 1に示します。
Optics | Vixen R200SS |
Corrector | Corrector PH |
Filter | ZWO LRGB 31mm |
Focal length | 760 mm |
F stop | F3.8 |
Camera | ZWO ASI294MM |
Gain | 120 |
Offset | 5 |
Binning | 2×2 |
Sensor temp. | -10℃ |
Exposure | L: 48 * 120 s R: 38 * 120 s G: 40 * 120 s B: 40 * 120 s Total exposure: 332 min |
Date | 4-Dec. 2021 20:44- |
Mount | SkyWatcher EQ6-R |
Guiding | 130 mm guide scope, QHY5L-IIM, PHD2 |
Software | PixInsight, Photoshop |
次のような手順でRGBの総露光時間を変えた画像を作成し、Lab合成を行うことで比較しました。すべての処理はPixInsightで行っています。
- キャリブレーションが終わったライトフレームについて、RGBそれぞれスタックする。スタックするフレームの枚数は、1, 5, 10, 20, 30, 40枚とした。
- スタックが終わった各RGBのフレームについて、Rチャンネルを基準画像とし、G, BチャンネルにLinearFitを行う。
- ChannelCombinationを用いてRGB合成を行う。
- ChannelExtractionを用いてL*, a*, b* チャンネルを取り出す。
- 取り出したL*チャンネルを基準画像とし、L画像(48 * 120 s固定とする)にLinearFitを行う。
- ChannelCombinationを用いて4. で取り出したa, bチャンネルと5. のL画像をLab合成する。
画像の評価については、STFによるストレッチでの目視比較、S/N比の比較を行いました。S/N比の算出には、Herbert Walter氏のスクリプトを使用しています。
結果
早速結果を見てみます。まずはわかりやすい目視比較の方からです。STFのオートストレッチは輝度がほぼ一定となるように自動的に強さが変わるため、分子雲のコントラストが変わっているのはその影響です。画像左上の赤色の出方に注目すると、RGB各10枚までは赤色がほとんど出ていませんが、RGB各20枚からは赤色がはっきりと出るようになっています。また、RGBの露光時間を増やすほど、より低輝度部の色がはっきりと出ているように見えます。ただし、画像の見え方についてはオートストレッチの強度が画像ごとに違うため、一概に比較できないという面もあります。
次に、S/N比の比較を行ってみます。Fig. 3はRGB各チャンネルごとに測定したS/N比を、総露光時間に対してプロットしたものです。縦軸はdB単位ではなく、比に変換しています。横軸はスタックした枚数に露光時間(2 min)を掛け、総露光時間としています。(RGBの総露光時間は横軸の値の3倍) また、灰色の一点鎖線はL画像のS/N比を表しています。RGBの露光時間を増やすにつれて、RGB各チャンネルのS/N比は、LチャンネルのS/N比に近づいていくものと考えられます。実際に、Fig. 3より、露光時間が増えるにつれて、S/N比が線形に増加してLチャンネルのS/N比に近づいていることがわかります。この結果は、Fig. 2の画像を目視で見た結果とも類似しています。S/N比の値を見る限りは、よりRGBの露光時間を増やせば、カラー画像の品質はより良くなりそうです。とはいえ、今回のモチベーションは、時間が限られた遠征において、どこまでRGBの露光時間を減らせるか?です。別の方法を考えてみます。
a*, b*チャンネルをぼかしてみる
ここで、RGBから取り出したa*, b*チャンネルを見てみます。やはり、RGB各1枚のほうは情報がほとんどないことがわかります。またバックグラウンドのノイズが目立ち、RGB各40枚のほうでも残存していることがわかります。このようなノイズが、LRGB合成後にカラーノイズとして残ってしまいます。Fig. 3において、RGB各チャンネルのS/N比がLのS/N比に比べて悪化していた原因と考えられます。
LRGB合成では、RGB画像からa*, b*チャンネルを取り出して使用します。Lab色空間において、a*, b*チャンネルの解像度は合成後の画像に影響を与えないことから、a*, b*チャンネルの解像度を犠牲にして、ぼかしてノイズの影響を軽減できるか試してみます。
結果は明らかに改善しており、同じ露光時間のぼかしなしと比較して色が出ている様子がわかります。また、S/N比の結果を見てもRGBはLのS/N比を上回っていることから、もはやRGBのノイズはL画像の品質に影響を与えていないと言えます。この状態でLの露光をさらに増やせば、トータルでさらに滑らかな画像を得られると予想できます。肝心の露光時間については、RGB各10枚から増えても色の出方に劇的な改善は見られないことがわかります。そのため、遠征のように時間が限られている場合は、RGBの露光時間をトータルでL画像の半分程度までに抑え、残りの時間をL画像の撮影に費やしたほうが、最終画像のS/N比が向上するものと考えられます。
その場合はRGB各画像の枚数が少なくなるため、統計的リジェクションの精度が下がります。今回はRGBとL画像の露光時間を2 minで同一にしましたが、画像の枚数を確保するために露光時間を短くしたほうが良さそうです。
まとめ
今回の結論は「RGBの露光時間を全体の半分として、残りをLに充てる」というものになりました。奇しくも『たのしい天体観測』の検証結果と一致しました。とはいえ、RGBのS/N比が良いことに変わりはありません。やはり多連装でRGBだけひたすら撮るカラーカメラが欲しくなります・・・(個人の感想です)