さよなら僕の神割崎 -雪雲と戦う男の物語-
雪国
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
川端康成、『雪国』より
あまりにも有名な、川端康成による小説の一節である。
時は令和、新月期を迎えた12月第3週のこと。今季最大級の寒波が日本列島を襲った。かの「大顧問」の言葉を借りれば、「令和2年12月豪雪」とも呼ぶべき災害級の大雪が列島を襲った。『雪国』の舞台として有名な新潟県では、災害級の大雪に見舞われ、関越道では大規模な車両の立ち往生が発生した。
東北地方の中でも太平洋側に面し、晴天率の高いとされる、ここ宮城県においても、強烈な寒波は山形県を蝕み、奥羽山脈を乗り越えて外界を白銀に染め上げた。
不運にも新月期と重なってしまったこの寒波を前に、悲鳴を上げる全国の天体観測愛好家は多くいたことであろう。ぐらすのすち氏による『ロオズ・ネブラ』は、そんな寒波への困惑と慟哭を克明に描き出した名作である。
該日は就中、今般で最も強い寒気が満ちたりし週の終の時節、負の北極振動にてオホオツクの低気圧の勢力はなはだ強し。
ぐらすのすち、『ロオズ・ネブラ』より
そのような中において、数多くの天体観測愛好家と同様、気象予報・天気図と気象衛星を睨みながら、貴重な新月期を無為に過ごす日々が続いていた。
時は流れ、12月19日。同日の気象予報は、私を絶望させるに十分なものであった。私は時間の許す限り気象予報を比較し、熟考を重ねた。
決断
— 熟慮の末、私は以下の観測地を候補とした。
- 福島県南部・太平洋沿い
- 岩手県南部・太平洋沿い
- 宮城県南部・太平洋沿い
同日の天気図は典型的な「西高東低」を示していた。同時期の日本列島においては、シベリア高気圧から吹き出す風が、日本海からの水蒸気の供給を受け、太平洋側へ降雪をもたらすのが常である。
このような状況下において天体観測を成功させるためには、いかにして列島を襲う湿った空気—雪雲—から逃れるかが肝要である。以上を考慮し、上記の候補を導くに至ったものである。私の「勘ピュータ」は、日本海から最大の距離を置くことが可能な、1. の選択を推奨していた。しかしながら、Windyは無慈悲にも全ての選択肢を否定する結果を提示し続けていた。
私は最後まで苦悶した。本日の好機を逸すれば本年の観測活動は終了するが、その一方で努力が水泡に帰す蓋然性は非常に高いものであった。
— 部屋の外を覆う氷雪に身震いしながらも、とうとう私は1.の選択を取ることを決断したのであった。さよなら、僕の神割崎—
雪雲からの逃避行
見えるはずもない太陽が西に傾きかけていく中、私は出立の時を迎えた。目的の地は福島県にあるという木戸ダムなる地である。不安と期待の入り混じる中、進路を南へ取り、冷たく濡れる三陸道を走らせた。
ほどなくして私は福島県—ここではむしろ磐城国というべきであろう—へ足を踏み入れた。雪雲から顔を覗かせる青空が、私の胸を高鳴らせた。
かくして私は目的地へとたどり着いた。日本海から吹き付ける冷たく湿った風は十分に乾燥し、この地に晴天をもたらしているようだ。吹き荒ぶ寒風に辟易するも、雪雲を堰き止める越後山脈、奥羽山脈、そして阿武隈高地に感謝しながら、私は機材を展開することとした。
吹き荒ぶ寒風は、時折ちぎれ雲をもたらした。湿った空気の活動が活発化していることの、紛れもない証左である。私は一抹の不安を覚えながらも、これから訪れる夜に期待を膨らませ、機材の展開を続けた。
後編へ続く・・・
今回はまじめな記事ではないと言ったな。あれはホントだ
今回の遠征記は、我らが大顧問による下記のツイートをきっかけとして書いた記事になります。
ぐらすのすちさんの「真面目な検証記事」は下記のリンクからどうぞ。GEM45、とても「ちょうどよい」赤道儀に見えます。
疲れたので、処理が完了したら後編を書こうと思います(APPを走らせながら・・・)。
“さよなら僕の神割崎 -雪雲と戦う男の物語-” への3件の返信