ツイン鏡筒のモザイク
先日の撮影にて、久々にだいこもん氏と合作をしました。今回のテーマはSh 2-126、通称鷹の爪星雲。どの辺が鷹の爪なのかはよくわかりませんが、淡いHaと分子雲が広がる領域で、かなりの難物です。今回は、5台の鏡筒とカメラのセットを使って、この対象に挑みました。合作も数回行って勝手がわかってきましたが、それでもなお多くの発見がありました。この記事では、撮影や前処理にあたって新たに発見したことを書きたいと思います。だいこもん氏の撮影記はこちらから。
目次
結果
結果は次の通り。Haを添加したことで、淡い星雲ですがS/Nよく描出することができたのではないかと思っています。画面右上に向かって伸びる分子雲は、多くの作例では白っぽく表現されていますが、Haを添加したところオレンジに寄ったため、今回はそのままにしています。
オリジナル画像はAstrobinよりご覧ください。
撮影準備編
遠征前日、構図の決定を行いました。撮影は2人合わせて5台の鏡筒で行う計画。私はRedCat 51 + ASI294MM, RedCat 51 + ASI294MC, FS-60CB + ASI294MM (Ha)の構成です。共同撮影者のだいこもんさんは、Mamiya Apo-Sekor Z 250 mm F4.5 + EOS 6D (mod)を2セットです。焦点距離はすべて250 mmで、フォーサーズフォーマットのASI294MM/MCとフルサイズフォーマットのEOS 6Dでは換算焦点距離が約2倍違うため、フォーサーズフォーマットの2×2パネルモザイクと、フルサイズフォーマットの1パネルがほぼ同じ画角となります。そこで、私は2×2パネルのモザイクとしました。構図については、この対象で定番の日の丸構図で、右上に向かって分子雲が伸びるような構図を選びました。
RedCat 51は2台をプレートに並列同架しています。このプレートには鏡筒間のアライメント機能を持たせておらず、固定ねじをゆるめて粗動で位置合わせをすることしかできないため、各鏡筒間で若干の位置ずれが残ります。そのままモザイクすると、それぞれの鏡筒でオーバーラップしない領域がでてくるため、鏡筒Aを基準に導入して4パネルを30 min×4で撮影→鏡筒Bを基準に導入して4パネルを30 min×4で撮影、これを1セット(4 h)として、2セット繰り返しました。これで暗夜をフルで使い切る計画です。
言葉で書いてもよくわからないと思いますので、下図のフローチャートを参照ください。ディザリングを行うため、一方のカメラは枚数を若干多くして、タイミングをできるだけ合わせるようにしたのがポイントです。N.I.N.A.のシーケンス機能にて、複数のN.I.N.A.インスタンスを同期させるようなことができれば良いのですが、現状そのような機能は見当たりませんので、手動でタイミングを取っています。
次に、N.I.N.A.の「高度なシーケンス」機能を使って、上図のフローチャートを撮影シーケンスに落とし込みます。詳しい記述の仕方は割愛しますが、対象ブロックと順次ブロックを組み合わせることで、シーケンスの作成が可能となります。どこのパネルを撮影した画像かわかるように、Fits Headerの”TARGET”に、パネルの番号を記録しておきます。
撮影編
作成した撮影シーケンスはつつがなく進行し、懸念であった2カメラ間でのタイミングもほぼ合いました。当ブログの撮影記やだいこもん氏の撮影記にあるため詳細は割愛します。
前処理編
撮影が終わり、前処理を開始しました。手順はいつも通り、モノクロカメラ画像はそのままスタック、Drizzleしました。カラーカメラ画像は一度SplitCFAで分解し、R: CFA0, G: CFA1 + CFA2, B: CFA3 をそれぞれスタック、Drizzleしました。次に、モノクロカメラ画像のRGBとカラーカメラ画像のRGBを、Astro Pixel Processorで各色ごとにモザイクしました。ここで二つ問題がありました。
- 子午線反転により、鏡筒A(主)基準での鏡筒B(従)の位置ずれ方向が反転してしまい、従の画像は子午線反転前後で撮影された位置が異なってしまう
- APPでSplitCFAした画像とモノクロカメラ画像をモザイクすることができない
1.は当たり前といえば当たり前なのですが、主は子午線反転前後で中心座標が変わらないために180゚回転した画像となるものの、従は位置ずれの方向も180゚回転するため、子午線反転前後で位置が一致しません。というわけで、4パネルのモザイクの予定が、実質12パネルのモザイクとなってしまい、画像の整理やスタックに余計な手間がかかってしまいました。従の状態で撮影した画像には”TARGET”タグにどこのパネルか情報が記録されません。画像を見ながら一つずつ選別することも考えましたが、Fits Header内に”Object RA”, “Object DEC”のタグがあり、対象の座標が正しく記録されていたため、FITS4WIN2を使って赤緯順、赤経順でソートしたところ、楽にパネルごとの画像を整理することができました。次に、従のパネルは子午線反転前後で撮影位置が異なるため、子午線反転を行った時刻の前後でさらに区分けしました。
2.は、処理フロー(下図)の赤枠部分で生じた問題です。APPはFits Header内の”BAYERPAT”タグを使って、データがワンショットカラーカメラで撮影された画像か、モノクロカメラで撮影された画像かを判別しているようです。SplitCFAした画像のFits Headerには”BAYERPAT”が記録されたままとなっており、そのままだとカラー画像として認識されてしまい、モノクロカメラの画像とモザイクすることができませんでした。そこで、PixInsightの”Fits Header”プロセスより、”BAYERPAT”のタグを削除したところ、正常にモザイクを行うことができました。
このように、大変後処理に手間のかかる撮影となりましたが、最初にお見せした結果は、その手間に見合うものになったのではないかと感じます。とはいえ、パネルがオーバーラップしないのはやはり面倒なので、今後は一台一台別の赤道儀に鏡筒を載せて運用することにしたいと思います。