iOptron SkyHunter レビュー

今回は、iOptronから最近発売された、SkyHunterという赤道儀を試用しましたので、その様子を記載したいと思います。
近年、波動歯車装置を使ったコンパクトな二軸赤道儀が増えてきました。ZWOのAM5や、SharpstarのMARK IIIなどが良い例です。このような波動歯車装置を使用した赤道儀は軽量コンパクトながら高い積載能力を有することから、機材を軽量化したい遠征派の人に人気を博しているようです。しかしながら、このような波動歯車装置を使った赤道儀は価格が高く、気軽に手を出せるような価格にはなっていないのが現状です。そんな中、iOptronより、5 kgの搭載荷重を持つ、コンパクトな二軸赤道儀が発売されました。5 kgという搭載荷重は、最近流行りの焦点距離250 mm前後の鏡筒を載せるのにちょうどよいスペックです。このようなコンパクト鏡筒と組み合わせるコンパクトな赤道儀というのは、遠征派が多い日本市場においてとても需要があるのではないでしょうか。250 mm前後の焦点距離になると、一軸タイプのポータブル赤道儀でもガイドが可能な範囲ではありますが、やはり一軸タイプのポータブル赤道儀は自動導入が使えない点と、ガイド精度に不満が残ります。SkyHunterはその点一軸のタイプのポータブル赤道儀と同程度の大きさ・重量でありながら、二軸ガイド、かつ自動導入にも対応しています。そんなわけで、早速使用してみたいと思います。

開封

箱を開けると、赤道儀本体、EQベース、ウェイトシャフト、カウンターウェイトが1個入っています。別箱には、三脚、延長ピラーが入っています。部品はほとんどが金属製で、堅牢な作りをしているようにみえます。

箱の中身

三脚以外の部品をまとめてケースに入れてみましたが、まだ余裕があり、RedCat 51も入りきります。

ケースに入れてみる

組立

実際に鏡筒を載せて組立をしてみました。載せる機材はRedCat 51, ASI294MC, QHYのガイド鏡、QHY5L-IIMと必要なアダプタ、ケーブル類で、機材の総重量は kgです。三脚に延長ピラー、EQベースを取り付け、EQベースのアリミゾへ赤道儀本体のアリガタを固定します。ウェイトシャフトとカウンターウェイトを取り付け、鏡筒を載せれば完了です。重量が軽い分、組立は中型の赤道儀に比べても楽で、手早く組立ができました。
紹介画像を見たときはどのように動作するかのイメージが湧きにくかったですが、赤道儀本体が回転することで赤経軸が回転します。赤緯軸については、鏡筒を載せるアリミゾ部分が回転するような構造になっています。

三脚を置く
延長ピラーとEQベースを置く
赤道儀本体を取り付ける
ウェイト/シャフトを取り付ける
鏡筒を取り付け、赤緯バランスを取る
赤経クランプをゆるめバランスを取る
およそホームポジションへ向けてクランプを確実に締めたら完了

使用して感じたこと

実写テストを行い、使用感を確認しました。その中で感じた良い点と悪い点は下記の通りです。

良い点

  1. 不動点が高く、カウンターウェイト上の姿勢でも干渉しない
  2. 組立が楽(赤道儀本体をEQベースに取り付けるだけ)
  3. 外部電源不要(PCのみで駆動可)
  4. 5 kgの耐荷重ながら軽量コンパクト
  5. 水準器内蔵
  6. コントローラーが付属しない
  7. アリミゾのクランプが面で押さえるタイプ

1.は延長ピラーのメリットで、鏡筒が三脚に衝突しにくくなっています。後述しますが、自動導入の動作に難があるため、通常であればあり得ない姿勢をとろうとすることがありました。このような際も、鏡筒が三脚に衝突しにくくなっていると安心感があります。
2.は前述の通りです。遠征撮影の設営・撤収は一分一秒を争う世界ですので、組立が楽なことは大きなメリットとなることでしょう。
3.について、この赤道儀は2000 mAhのバッテリーを内蔵しています。しかし、PCから制御しようとするとバッテリーが充電されてしまう上、0゚C以下の環境ではバッテリーを充電してはいけないという注意書きがあり、これでは0゚C以下の環境で撮影することの多い私は使用できません。そこで内蔵のバッテリーを取り外したところ、PCからの給電のみでこの赤道儀が動作することがわかりました。通常の赤道儀は外部電源を必要としますので、PCからの給電のみで動作するのは非常に大きなメリットです。(メーカー推奨の使い方ではないため、この方法で使う際は自己責任にてお願いいたします。)
6.は人によってデメリットと感じるかもしれませんが、コントローラーが標準付属ではなく、オプションとなっており、その分金額が安くなっています。PCまたはスマホからしか赤道儀を制御しない人にとっては大きなメリットでしょう。
7.について、鏡筒を載せるアリミゾの形状はボルトで直接アリガタを受ける形状ではなく、面で押さえるブロックをボルトで押さえつけるタイプになっています(前項の写真参照)。前者ですとアリガタがボルトにより変形し、締め跡が残ってしまいますので、安心感があります。一方、赤道儀本体をEQベースに取り付けるアリミゾはボルトで直接アリガタを受けるタイプになっており、少し残念です。実際に赤道儀本体のアリガタには数回の使用ですでに締め跡が残っています。

カウンターウェイト上の姿勢も可能なことがある

悪い点

  1. アリミゾの嵌合代が狭く、バランスを取りにくい(アリガタの長さによってはバランスが出ない?)
  2. 赤経・赤緯のバランスにシビア
  3. カウンターウェイトの重量が不足している
  4. セットに触れた際に三脚が動く
  5. セットの重量が軽く、風に弱い
  6. 三脚の開き止めが固定できない
  7. 初期位置出しの操作がわかりにくい
  8. 自動導入が失敗することがある

1-3.について、アリミゾの嵌合代は28 mm程度しかないため、赤緯軸のバランスをとる際に、アリガタが短いと、アリガタをスライドできる範囲内でバランスを取ることができない可能性があります。また、これは軽量な赤道儀の宿命でもありますが、赤経・赤緯軸のバランスは大変シビアで、きちんとバランスを取らないとモーターの回転数が低下し、最悪回らないことがあります。このような状態ではギアに負荷がかかるため(小型化に際し内部のギアも小型になっていることが推測され、過負荷に対する耐性も落ちていることが予想されます)、できるだけ正確にバランスを取る必要があります。また、ケーブルの重量だけでも重量バランスが大きく変化しますから、バランスの際は必ずすべてのケーブルを接続した状態で行う必要があります。このような状況にもかかわらず、カウンターウェイトの重量は1.3 kg, ウェイトシャフトの長さは200 mmしかなく、今回使用した機材の組み合わせは3.0 kg程度と耐荷重を下回っているにもかかわらず、赤経軸のバランスが出ませんでした。早速追加のカウンターウェイト(重量約300 g)を作製し、バランスを合わせられるようにしました。
4.5.は軽量コンパクトな赤道儀の宿命ともいえる問題です。軽量がゆえに、セットに触れてしまうと三脚が動いてしまい、極軸がずれてしまいます。当然風にも弱く、強風時はガイドが乱れることが予想されます(残念ながらここまでのテストでは強風の日がありませんでした)。三脚に重りを取り付けて、セット全体の重心を下にすることで改善される可能性がありますが、未検証です。
6.も剛性に効いてくるところで、三脚には開き止めが付いているものの、開き止めは開閉式となっており、一枚板をねじ込んで留めるタイプの開き止めに比べると、セットの剛性アップは期待できません。
7.は操作だけの問題ではありますが、この赤道儀は電源オン時点での機械的位置をホームポジションとして認識するようです。前述の通り、PCと赤道儀を接続した時点で赤道儀への給電が始まりますから、赤道儀をホームポジションに設定してから電源をオンにすることを心掛けたいです。また、使用前には、必ず「パークに設定」して、この位置がホームポジションであることを学習したほうが良いです。
8.について、自動導入により子午線反転時を試みた際に正しく反転せず、鏡筒が西側の状態で子午線を越えた座標へ導入しようとすることが発生しました。前述のとおりホームポジションは正しく認識されているはずであり、注意が必要です。良い点1.で述べた通り、このような姿勢になってもピラーへ鏡筒が接触することはありませんでした。自動導入時に作動方向がおかしくなった場合は、制御ソフト側から作動を停止し、一度制御ソフトから作動させてホームポジションへ戻し、パーク位置を再度学習させると良いです。クランプをゆるめて手で軸を回してしまうと、クランプをゆるめる際に三脚が動き、極軸ずれの原因となることがあります。電源投入後は、手動での軸の操作をしないことをおすすめします。

追加したカウンターウェイト

ガイド結果

星像

撮影した画像を位置合わせして、動画化してみます。中型の赤道儀と比べるとやはり多少のガイドエラーが見られますが、リジェクションで消えるレベルなので問題なしといった感じです。

まとめ

今回は、iOptron SkyHunterを使用してみました。全体的な感想としては、「ついにコンパクト赤道儀の決定版が出たな」と感じました。国内の遠征に、海外遠征にと気軽に持ち出せる大きさ、自動導入対応、ガイド精度も必要にして十分であり、価格を考慮しても初めての赤道儀やサブ機として存分に活躍してくれることでしょう。一方で気になったのは、全体的な剛性不足です。こればかりは小型・軽量化とのトレードオフなので仕方ありませんが、やはり大型の赤道儀と比較してしまうと、剛性不足に起因するガイド精度の悪さが目立つ場面もありました。とはいえ、総合的に見ればコストパフォーマンスが非常に高い赤道儀であると感じました。

“iOptron SkyHunter レビュー” への4件の返信

  1. AZ-GTiより高いですが、そーなのかーさんのお眼鏡に適うとなると欲しくなりますね。
    あとAZ-GTiではなかった極軸望遠鏡のオプションも極軸合わせが苦手な私には良いですね。

    1. 星屋さん、
      コメントありがとうございます。

      極軸合わせはSharpCapの極軸合わせ機能が一番簡単だと思います。
      極望もあるにはありますが・・・

  2. はじめまして。
    天体撮影を始めようとしている初心者で、ポータブル赤道儀としてiOptron社のSkyGuiderProを調べていたところSkyHunterを知り、そーなのかーさんの記事に行き当たりました。市場にはあまり情報が出ていない状況ですが、欲しい情報が満載でためになりました。
    購入時の参考にさせていただきます。

    1. 高橋さん、
      コメントありがとうございます。
      まだ日本では情報が少ないので、何かしら参考になれば幸いです。
      わからないことがあれば、お気軽にご連絡ください。

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